「共感できる持続可能社会づくり」のその後(岩川 貴志:MailNews 2011年8月号)

※ この記事は、KIESS MailNews 2011年8月号に掲載したものです。

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 今年はじめのKIESS MAILNEWS(2011年2月号)にて,滋賀県東近江市での試みとして,地域で活躍する人たち自身による持続可能な将来社会像づくりと,そのアニメーション化について紹介しました。今回は,その後完成したアニメーションで用いられたイラストを中心に,将来の持続可能な東近江のすがたがどのようなものになったか,引き続き紹介いたします。

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今から約20年後,西暦2030年の東近江では,誰もがものの見方や考え方のちがいを認め,それぞれの得意なことを活かして,互いに助け合うまちづくりが進んでいます。それぞれが地域で役割を持って参加することで,住む人たちを活き活きとさせています。

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大家族で暮らしたり,共同生活をしたりする人が多くなりました。仲間同士が世代をこえて共に暮らした方がより助け合える関係になり,省エネにもつながるからです。地域の文化や先人の知恵を大切にしながら,地域行事や,清掃や道普請などの共同作業を通じて,これまで忘れられがちであった人と人とのつながりや絆を取り戻しました。地域の集会所や公民館,お寺や神社もつながりや絆を確かめる場として見直されるようになり,高齢者をはじめいろんな世代との交流の場にもなっています。

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2030年の東近江では,家族だけではなく社会全体で子どもを育てるという意識を大切にしています。近所の人たちが赤ちゃんのお世話を手伝う姿がよく見られるようになりました。教育ではみんなが同じであることよりも,社会との関わりや体験を通じてそれぞれの得意分野や才能を大切に伸ばしていくようになりました。「ほんまもん体験」は,詰め込み型の教育とは違い,いつまでも深く心に残り,生きる知恵となります。地域行事や農業の忙しい時期に学校をお休みすることも認められています。

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郷土の食文化もみなおされました。地域で取れたものを地域で食べる「地産池消」の考えかたが大切にされるようになり,地酒もおいしく飲まれています。モロコやビワマスなどが食卓に花を添え,新しい人材が加わって漁業も元気になっています。

農林水産業への関心が高まり,「食べていける産業」として自立しています。農家のあり方は大きく二つ,近郊都市に安定した出荷ができる大規模な集約農家と,小規模だけれど有機や無農薬など手間をかけるこだわり農家に分かれています。さらに加工品の製造・販売まで担う6次産業農家も増えています。田舎体験ができるしくみも整い,生きがいづくりや絆作りの場所として,都市で暮らす多くの人が東近江を訪れています。滞在型の市民農園も増えました。

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山は,私たちの生活を支える大切なものになっています。森の木を建材に使うだけではなく,チップやペレットなどのエネルギーの源でもあり,二酸化炭素の吸収源でもあり,きれいで安心な水源地でもあり,さらには木の実やきのこも採れる「宝の山」によみがえっています。

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ものを買うときは,長く使えるものを選び,壊れても修理して使います。生産者や販売者はごみが増えるものを作ったり売ったりせず,消費者はごみになるものを買わないように心がけています。伝統工芸品である焼き物や食器,織物なども,生活用具としてよく利用されるようになりました。地元の店をみんなで守っていこうといった意識が高まり,地域通貨も使われるようになりました。

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2030年の東近江では,恵まれた自然をいかし,地域で使うエネルギーは可能な限り地域の太陽光や風力や水力などでつくるという考え方がひろまっています。森林を整備したときの間伐材は,薪やチップ,ペレットなどの燃料にしています。東近江が発祥の地である「菜の花エコプロジェクト」は市内全域にひろがっています。多くの家庭では太陽光発電パネルが設置され,近くの水路や小川では,小さな発電機をとりつけて電気を引いています。こうした自然のエネルギーを積極的に活用しながら,無駄なエネルギーを使わない生活の工夫もさかんに試みられています。

子どもや孫の時代まですみよく美しい東近江を残していくためには,環境のことだけを考えるのではなく,農林漁業や地域の企業,地元の商店が元気であること,人々がいろんな違いを認めながら自立しつながりを取り戻すことといった「社会のしくみ」や「心のありよう」も変えていかなければならないというのが,私たちの結論であり,大切な提案です。

イラスト:中村 友子(滋賀県立大学)

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 このアニメーションはケーブルテレビ局「東近江スマイルネット」にて,市政広報番組「2030年 持続可能な東近江市の環境まちづくり」のなかで一週間にわたって紹介されました。さらに今後,YouTubeを通じて東近江市以外の方々にも広く見ていただけるようにすることを予定していますので,その際にはぜひ一度ご覧いただいて,ご意見やご感想をいただけますと幸いです。

最後に余談ですが,このときの番組を制作・放送したのは先述の通り東近江市のケーブルテレビ局なのですが,アニメーションの原画を作成したのは隣の彦根市にある滋賀県立大学の学生の方で,紹介のためのナレーションは東近江市役所の職員の方,そして背景で流れているBGMも市役所の方が制作されたそうです。地域の力を集めれば本当にいろいろな事ができるのだな,と実感しました。

(いわかわ たかし:KIESS研究員)

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