共感できる持続可能な社会づくり(岩川 貴志:MailNews 2011年2月号)

※ この記事は、KIESS MailNews 2011年2月号に掲載したものです。

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滋賀を舞台とした持続可能な社会への試みは,KIESSでもたびたび紹介してきたのでご存じの方も多いかと思われます。筆者も一昨年度から「滋賀をモデルとする自然共生社会の将来像とその実現手法」という研究プロジェクトに参加し,実際に地域の人たちの声を聞きながら,新しい社会の姿を一緒に模索しているところです。今回はそこでのある試みについて紹介させていただきたいと思います。

 

持続可能な地域社会のビジョンづくり

滋賀県の東部に,東近江市という人口約12万人の市があります。旧八日市市など1市6町が合併してできた自治体です。最近では「東近江モデル」という言葉を聞かれたことがある方も多いのではないでしょうか。

そんな東近江市で昨年から「ひがしおうみ環境円卓会議」というワークショップが開かれています。おもに市内で,自然と共生した暮らしや地域コミュニティの再生による教育・福祉の実現をめざして活動されている方たち二十数名に集まっていただき,およそ20年後,2030年の東近江が持続可能な社会であるためにどうなっていてほしいか,どう変えていきたいかという議論をもとに,将来の地域社会のビジョンをつくりあげてきました。環境という名前のついた会議ですが,あえてエネルギーや温室効果ガスといったテーマは前面に出さずに,参加者のみなさんが考える理想の地域社会とはどのようなもので,そのためにはどんな生活を営んでいることになるか議論をしてもらい,その結果としてエネルギー消費や温室効果ガスはどれだけ削減されているかを示す,という作業を繰り返してきました。まず地域社会そのものについてみんなで考えていって,結果として環境問題の解決もはかる,というスタンスです。

そんなひがしおうみ環境円卓会議も今年になり,ようやくビジョンの内容がかなりまとまってきました。地域社会について,考えうる限りのあらゆる側面について参加者の皆さんの意見をまとめたものなので,とてもここで内容を紹介しつくせるものではありませんが,2030年ごろには温室効果ガスの排出は現在の半分以下にしなければならないという背景のなかで,人々がおたがいに協力しあい,自分たちの力で自律して,自然の恵みと共に生きていく,そんなかたちでの新しい豊かさに満ちた社会,という将来像に集約されていきました。

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このビジョンを,どうやってつたえるか?

このひがしおうみ環境円卓会議ですが,もともとは一研究プロジェクトのなかでの試みとしてワークショップを開催してみる,という位置づけでした。しかし,事務局の東近江市役所では,せっかく地元で活躍されている方たちに大勢集まって将来像を語ってもらうのだから,ただの環境分野の研究として終わらせるのはもったいないということで,このビジョンを後々に活かしていこうという試みがすすめられています。

ひとつは,円卓会議での議論の成果が行政の現場に反映してもらえるように,現在見直しを進めている東近江市の総合計画(地方自治体の行政の最上位に位置づけられる計画)に対して,作成したビジョンを一つの提案として投げかけることです。
そしてもうひとつは,この円卓会議の成果をもっと多くの人に伝えようということです。

ビジョンで言及しているのは地域社会のあり方そのものであって,そこでは我々の家庭での生活スタイル,働き方,近所の人たちとの関わり方などさまざまな物事が変わることを想定しています。このビジョンを実現させるためには,一部の人が頑張ればなんとかなるというものではなく,東近江に住んでいる多くの人たちにその意味を理解してもらった上で「こんな暮らしもええなぁ」と思ってもらうことが必要です。中身を詳細に理路整然と伝えることも重要ですが,その場合どうしても内容を理解できる人が限られてしまいます。だれもが感覚的に理解できるような表現のしかたを考えなければなりません。

そのための手段として今回,東近江市内の約半数の世帯が加入しているケーブルテレビ局を利用して,市政広報番組でひがしおうみ環境円卓会議がつくったビジョンを紹介しようとしています。行政の広報番組というと,単に役所の担当者が画面越しに現在すすめている事業や,新しく策定した推進計画の内容を淡々と説明するだけというイメージが持たれがちですが,今回はちょっと趣向を変えた番組づくりを考えています。

ひがしおうみ環境円卓会議の現場では,参加者の方々や事務局のメンバーにまじって,滋賀県立大学の学生さんにも参加してもらっていました。彼女の役割は,そこでの議論をもとに要点をまとめて,2030年の東近江での人々の暮らしをイメージした,一枚の大きな絵を描いてもらうことです。議論に参加している皆さん自身も,自分たちが語る夢を具現化したらどのようなものになるか,というイメージを持てるようになりますし,それを見ながら考えをまとめ直したり,あるいは新たなアイデアをうみ出すことができるというメリットもあります。今回の広報番組ではそのときのイラストをベースとして,簡単なアニメーションを作成して流してみようと目論んでいるのです。

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2030年の東近江市のイメージ図(一部抜粋)

2030年の東近江市のイメージ図(一部抜粋)放送予定は3月下旬なので,まだまだ構成を考えつつ製作作業をすすめている段階なのですが,持続可能な地域社会の姿を表現し,伝え広めるための新しい試みとして試行錯誤を続けている真っ最中です。いずれ機会がありましたら,KIESSでもなにかしらの形で完成した番組の内容をご紹介させていただきたいと考えております。

(いわかわ たかし:KIESS研究員)

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