FIT制度を踏まえたバイオマスエネルギー利用の試算と今後の展望(楠部 孝誠:MailNews 2014年5月号)

※ この記事は、KIESS MailNews 2014年5月号に掲載したものです。

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バイオマスエネルギー導入への傾斜

2012年7月にFIT(固定価格買取制度)が導入され,売電価格が大幅に見直されたことでバイオマスによる発電事業の採算性が改善されたことにより,バイオマスのエネルギー利用を検討するケースが増えてきている。2011年3月に起こった東日本大震災に伴う原発事故の影響に加えて,昨年9月から発表されているIPCCの第5次評価報告書の内容もこれを後押ししている。2007年のIPCC第4次評価報告書が発表された時点で気候システムの温暖化がほぼ確実視され,その原因も人為的な要素とほぼ断定されていたが,今回のIPCC第5次評価報告書では,さらに踏み込んだ表現で地球温暖化の進行が指摘されている。バイオマスを含む再生可能エネルギーについては環境省,経済産業省などを中心に導入支援や法整備が行われ,最近では農林水産省による農山漁村再生可能エネルギー法(農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律)が5月1日に施行されたばかりである。そこで今回はバイオマスエネルギー利用の一例として,バイオマスのメタン発酵による発電事業の採算性について試算を行った。

 

FITを利用したメタン発酵システムの試算

 

メタン発酵システムの物質フロー

まず,FIT制度とは再生可能エネルギーで発電した電力を電力会社が一定期間,一定価格での買取を義務付けたものであり,例えば,メタン発酵の場合,直近の設定価格であれば,20年間にわたり,40.95円/kWhで売買される。FIT制度に先立つ「電気事業者によるエネルギー等の利用に関する特別措置法(H15)」,いわゆるRPS法でも売電価格は引き上げられていたが,メタン発酵の導入を促すほどのインセンティブはなかった。

このため,今回のFIT制度による売電価格の引き上げによるバイオマスのエネルギー利用の導入促進の可能性を検証するために,ここでは牛ふんおよび食品廃棄物を対象にFIT制度を利用したメタン発酵による発電の採算性について検討した。

まず,牛ふんについては,(Case1-1)乳牛ふん尿をメタン発酵し,発酵後の消化液を液肥利用する,(Case 1-2)同様にメタン発酵し,発酵後の消化液を排水処理して河川放流する,2つのケースでそれぞれ1日処理量が25tと50tの場合のメタン発酵のFIT制度導入による投資回収の試算を行う。対象となるケースの1日処理量が25tの場合の物質フローは以下のとおりである。(図1,2)

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図1. 消化液を液肥利用する場合(Case 1-1)

 

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図2. 消化液を排水処理して河川放流する場合(Case 1-2)

 

次に,乳牛のふん尿と同様に食品廃棄物(生ごみ)では,(Case2-1)食品廃棄物をメタン発酵し,発酵後の消化液を堆肥化・液肥利用する場合,(Case2-2)同様にメタン発酵後の消化液を排水処理して河川放流する場合で,それぞれ1日処理量が25tと50tの場合でFIT制度導入による投資回収の試算を行う。1日処理量が各25tの場合の物質フローを図3,4に示す。

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図3. 消化液を液肥利用する場合(Case 2-1)

 

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図4. 消化液を水処理して河川放流する場合(Case 2-2)

 

FIT制度を利用したメタン発酵のコスト試算結果

上述の物質フローに基づき,メタン発酵を行い,FIT制度を利用した場合の試算結果を表1に示す。

 

表1. FIT制度を利用した利用したメタン発酵のコスト試算結果

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試算結果を見ると,牛ふんの場合,消化液を液肥利用する(Case 1-1)では,建設費を含めると25t/日処理で年間約1,600万円,50t/日処理で約500万円,排水処理をする(Case1-2)ではそれぞれ約5,000万円,約7,300万円のマイナスが生じた。特に,(Case1-2)の場合,排水処理のために伴う電力購入費および薬剤費,燃料費がマイナスの大きな要因となっているため,液肥利用が現実的である。さらに,1tあたりの処理費を考えれば,メタン発酵の処理規模が大きい方がよいことがわかる。Case1-1,1-2に共通しているのは,処理受入および堆肥・液肥販売収入が大きいこと,後述する食品廃棄物のメタン発酵と比較して売電収入が極端に少ないこと,建設費の負担が大きいことである。堆肥・液肥の販売益が重要な収入になっているが,特に液肥を利用するには保管・輸送効率を高めるための濃縮技術の開発などの条件がある。その上で多量の液肥・堆肥を受け入れる相当な規模の農地が必要になるため,耕種農家との連携が必須となる。つまり,液肥の利用できる耕地面積に応じてメタン発酵の規模が決まるといっても過言ではない。

一方,相対的に売電収入が少ないのは,乳牛からのメタンガスの発生量が少ないことに起因する。実際の事例でも乳牛ふん尿単独ではなく,メタンガスの発生量が多い豚ふん尿や食品廃棄物との混合処理が多い。特に,食品廃棄物を受け入れれば,メタンガス発生量が増加することに加えて,零細な畜産農家からのふん尿処理費と異なり,食品廃棄物(特に,産業廃棄物としての食品廃棄物)は比較的高い処理受入費用が見込める。FIT制度によって売電価格が上昇していること,メタンガスの発生量を考慮すれば,乳牛ふん尿単独ではなく,食品廃棄物や豚ふん尿と混合処理するなどが必要になる。

また,75%の補助率でも建設費の負担が大きく,建設費を含まない(100%補助)1日50t処理の液肥利用のケースを除けば,収益性は見込めない。とにかく,日本のメタン発酵施設は欧米や途上国のCDM(クリーン開発メカニズム)等で利用されるメタン発酵施設に比べ,総体的に割高であり,運転管理を含め,いかに建設費を抑制するかが今後の課題になる。例えば,自治体が運営する下水処理場やし尿処理場に併設されているメタン発酵装置で混合処理することも1つの方法であろう。

結論として,牛ふんの場合,FIT制度によって売電価格が引き上げられ,事業の大幅な改善が期待できるが,それでも採算が取れないため,メタン発酵施設の建設費を抑制し,安定的に液肥を利用できる技術開発と利用する耕種農家との連携を強化した上で,食品廃棄物等との混合処理によるメタンガスの発生量の増加による売電収入の増加を検討することが必要になる。

一方,乳牛ふん尿とは異なり,食品廃棄物を対象にしたメタン発酵では建設費用が高いにもかかわらず,ほとんどのケースで収益が見込める結果となっている。大きな要因は処理受入と売電収入が非常に多い点にある。食品廃棄物を対象にした場合,排出者が零細な畜産農家ではなく,食品事業者であるため,処理受入価格が25,000円/tと高額になる。また,乳牛ふん尿の単位量あたりメタン発生量が約15m3/tであるのに対して,食品廃棄物は約110m3/tあり,これが発電量,ひいては売電収入に大きく影響している。なお,ここでは食品廃棄物として生ごみでメタン発生量を試算しているが,食品製造業から発生する食品副産物などメタン発酵の原料種によってはメタン発生量がさらに増加することが見込まれる。

FIT制度によって,食品廃棄物を原料としてメタン発酵は採算性が大幅に改善されるため,これまで飼料や堆肥へ利用していた事業者がメタン発酵へ移行する可能性も考えられる。仮に食品製造業系の食品廃棄物がメタン発酵へ移行すると,飼料利用の減少が推測されるが,飼料価格が高騰を続ける中でこのトレードオフは食品廃棄物を飼料利用する畜産業者にとって,大きな影響が生じる可能性もある。

一方,小売・外食系の食品廃棄物は当該自治体の処理料金との比較になるが,現状,自治体の処理コスト(平均約12円/kg)とメタン化の処理コスト(民間平均25円/kg)では倍近くの価格差があり,メタン化へ誘導されるインセンティブがない。そのため,①自治体の処理料金の値上げ,②処理事業者の処理料金の引き下げ(FIT制度による利益還元),③リサイクル法の一層の強化,といった条件が揃わないとメタン発酵のための食品廃棄物が集まらない。特に,自治体の処理料金が低価格に設定されている関西地域ではメタン発酵の導入は容易ではないと推測される。また,仮にこれらの条件がクリアされた場合,メタン発酵によるエネルギー回収がビジネスとして有望視されると食品廃棄物の発生抑制が働かなくなる可能性がある。再生可能エネルギーの利用拡大が重要な課題ではあるが,FIT制度において食品廃棄物のメタン発酵は大量リサイクルにならないような工夫も必要である。

 

バイオマスエネルギー利用の展望

バイオマスのエネルギーを利用するにはいくつかの問題点があるがここでは2つの点を考える。1つは上述でも指摘したようにエネルギー密度の低さに由来する原材料確保の問題である。化石燃料と同等のエネルギーを創出するには,相当量のバイオマスが必要であり,低コストでかつ炭素含有量の高いバイオマスを集めなければならない。また,未利用バイオマスでよく言われるのが,未利用だから利用するという点である。未利用バイオマスを利用すること自体はいいが,未利用だったのには理由があり,それを利用するには相当な手間隙が必要だということでもある。FIT制度でも木質発電が注目され,林地残材による発電事業が検討されているが,結局原料を集めるためのコストが影響し,どうしても集めやすいものが利用されることになる。そうなれば,エネルギー利用が優先され,本来の用途での利用に影響がでる可能性もある。特に,発電利用においては,規模効率,施設の稼働率が重要視され,結果として“残材の有効活用”という目的が“エネルギー利用”に置き換わり,資源の過剰利用が進む可能性もある。

もう1つは,バイオマスは全てエネルギーに変換できないという点である。ふん尿をメタン発酵しても,重量ベースでいえば,メタンガスとなるのはごく一部であり,9割以上が汚泥として残る。そのため,メタン発酵に際しては,エネルギー獲得ばかりに目を向けるのではなく,副産物として発生する消化汚泥の有効利用にこそ十分な配慮が求められる。

これらの点からもわかるように,現在の社会システムは,化石燃料を燃料源と前提したシステムであり,バイオマスや自然エネルギーが簡単に化石燃料を代替できるシステムではなく,あくまで補完的な位置づけにしかならない。そのため,バイオマスをはじめ,再生可能な資源をエネルギー利用していくための技術開発も重要だが,再生可能エネルギーを何に利用するのか,どこで利用するのかということを検討するとともにいかに社会システムの中で省エネ・脱エネを推進するかを最優先に考えていかなければならない。

 

(くすべ たかせい:KIESS理事・石川県立大学講師)

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