KIESS事務所ミニ太陽光発電導入記(岩川 貴志:MailNews 2014年1月号)

※ この記事は、KIESS MailNews 2014年1月号に掲載したものに、一部加筆修正を加えたものです。

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LED電球、電気スタンド、ノートパソコン、タブレット、そしてスマートフォン。上の写真にうつっているこれらはすべて、自然エネルギー100%の電気で動いています。

昨年、鈴鹿カルチャーステーションにて「手づくりミニ太陽光発電ワークショップ」が開催されました(KIESSも共催)。会場では30人近い参加者がみんなで協力し合って、全部で8組のミニ太陽光発電システムを組み立てました。

そのうちの一組が、現在KIESSの京都事務所にあります。私もこのワークショップに参加していたので京都に持って帰ってきたのですが、我が家に置いておくよりは役に立つのではないかと思い、事務所でいろいろ遊びながら(?)、どのような使い方ができるのか、自分だけでどこまでのことができるのか、素人なりに試行錯誤してみました。

今回は、このKIESS事務所ミニ太陽光発電システムの、これまでの経過をご紹介してみたいと思います。

現在KIESS事務所で使用しているミニ太陽光発電システムは、

  • ソーラーパネル(公称最大出力50W,公称最大出力動作電圧18V)
  • ディープサイクルバッテリー(定格電圧12V,蓄電容量32Ah)
  • チャージコントローラー
  • DC-ACインバーター(300W)
  • DC-DCコンバーター(70W)
  • 車載用シガーソケット(4口)
  • シガープラグUSB充電器(2口)

によって構成されています。これらをつなぎ合わせることで、マンションのベランダのような狭いスペースでも発電可能で、系統電力に頼らない独立型のミニ太陽光システムが使えるようになります。

 

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ソーラーパネルは大きさ65cm×54cm、重さは4.5kg、一人でも簡単に持ち運びができるサイズです。このパネルを事務所の一階の、日当たりがいい南側の屋根に載せています。本来なら架台に取り付けてしっかり屋根に固定しないといけないところですが、現時点では外壁に取り付けたフックとワイヤーでつなぐことで、簡易の落下防止策を施しています。

 

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パネルからのびる電線を室内に引き込むのには、エアコン配管用のアルミパネルを取り付けました。これは本来、壁に穴をあけられない賃貸マンションなどでエアコンを取り付けるときに、窓枠をつかって室外機の配管を通すための商品です。すでにエアコン用の配管孔が用意されているなら、それをそのまま利用する方がいいでしょう(細い線なので、すでにエアコンを使っていて配管孔がふさがっていても、すき間から通すことができると思います)。

 

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発電した電気は「チャージコントローラー」を経由して、バッテリーに充電されます。単純にパネルとバッテリーを直接つないでも充電できるのですが、天気のいい日に満タンになっても充電しようとし続けるとバッテリーを傷めてしまいますし、発電しない夜中などにはバッテリーからパネルに電気が逆流して、パネルを傷めてしまう可能性もあります。またバッテリーには、一定のラインを越えて放電し続けると急激に劣化してしまうという特性があるため、充電しないまま電気を使い過ぎるとバッテリーの寿命を縮めることになってしまいます。かといって、ことあるごとにパネルの発電状況やバッテリーの残量をチェックしながら配線を付け外しするのは面倒なので、つなぎっぱなしの状態でもこれらのトラブルを防ぐための制御をおこなってくれるのがチャージコントローラーです。

バッテリーの見た目は自動車用の鉛蓄電池と似ていますが、「ディープサイクルバッテリー」とよばれるもので、たとえば昼の間に充電しておいて、夜中にそれを使用するといったサイクルを繰り返す(自動車の場合は、エンジンがかかっているあいだ充電し続けることで常に満タンの状態を維持している)場合の耐久性にすぐれています。事務所で使用しているディープサイクルバッテリーは、一台で定格電圧12V×蓄電容量32Ah=384Wh(0.384kWh)の電気を蓄えておくことができます。

 

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いったん蓄えてしまえば、雨が降ろうが夜中であろうが、いつでも太陽光でつくった電気を使えるようになるのですが、バッテリーから取り出すことができるのは12Vの直流(DC)電流です。一方、ふだん我々がコンセントから使っているのは100Vの交流(AC)電流なので、そのままプラグとバッテリーを線でつないでも、家庭用の電化製品を使うことはできません。そこで必要になるのが「DC-ACインバーター」という装置です。DC-ACインバーターを使用することで、直流を交流に変換して、さらに電圧を100Vに上げることで、家庭用の電化製品をそのまま使用することができるようになります。上の写真のDC-ACインバーターは、もともと車の中で電化製品を使用するためのカー用品として市販されているものなので、自動車でおなじみのシガープラグから電源をとるようになっています。したがってバッテリー側にも、インバーターと接続するためのシガーソケットをつないでやる必要があります。

このようにDC-ACインバーターは非常に便利なものなのですが、実際のところKIESS事務所ではあまり使用していません。なぜかというと、

1.変換時のロスがもったいない

インバーター自体の消費する電力が多く(かなり発熱するために、冷却用のファンを回し続けなければなりません)、DC12VからAC100Vへの変換プロセスを含めると、全部で10~20%ほどの電力をロスしてしまうことになります。

2.結局は直流にして使うのにもったいない

どの家庭にもノートパソコンや電話機など「ACアダプタ」を使用する電化製品があると思います。このACアダプタというのは100Vの交流電流を、使用する機器に合わせた「直流電流」に変換する装置です。なのでDC-ACインバーターとACアダプタをつなぐと、バッテリーの12Vの直流電流をわざわざ100Vの交流電流に変換したのに、けっきょく十数ボルトそこそこの直流に戻して使うという、まわりくどい手順を踏んでしまうことになります。

という二つの「もったいない」を感じたからです。大きなパネルと大容量のバッテリーでふんだんに電気が使えるのであれば、このような細かいことを気にしなくていいのかもしれませんが、今回のような小さなシステムを少しでも有効に使おうと考えると、できる限り直流のままでの使い道を模索することにこだわってみたくなりました。

私が事務所の仕事部屋で太陽光発電、と考えたときに思い描いた使いみちは、

  • スマートフォンやタブレットを充電する
  • ノートパソコンを充電する
  • 部屋の照明をLEDにする

の三つ、これを直流のみでチャレンジしてみることにしました。

 

【スマートフォンやタブレットを充電する】

DC-ACインバーターの説明で少し触れましたが、バッテリーに蓄えた電気は、シガーソケットをつなげるようにすれば、カー用品をそのまま利用することが可能です(ただし自家用車などで使われる12V用の製品と、トラックなどで使われる24V用の製品があるので注意が必要です)。

 

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KIESS事務所では現在、チャージコントローラーにシガーソケットを4口に増やす分配器をつないで、そのうち1つにシガープラグ専用のUSB充電器を差し込むことで、スマートフォンやタブレットの充電ができるようにしています。最近では携帯用の音楽プレイヤーやゲーム機でも、USBをつかって充電できる周辺機器がたくさん売られているので、汎用性の高い充電ツールとして家庭でも存分に役立つのではないでしょうか。

 

【ノートパソコンを充電する】

事務所では普段デスクトップパソコンを使用しているのですが、打ち合わせやプレゼン、気分を変えてコタツのある部屋で仕事をしたい時などのためにノートパソコンもよく使っています。

 

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先述のようにノートパソコンはACアダプタ経由で直流電流を使用する機器なので、バッテリーの直流電流をそのまま使用する方が、効率的に充電することができます。ただし、ノートパソコンは機種によって使用する電圧が異なるので注意が必要です。たとえば私のノートパソコンのACアダプタを見ると、底面に「OUTPUT:20V-3.25A」と書かれています。このACアダプタはAC100VをDC20Vに変換している、つまり、このノートパソコンは20Vの直流電流で動いているということがわかります。

 

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ノートパソコンをバッテリーとつなぐには「DC-DCコンバーター」という製品を使用しています。これもやはりシガーソケットから電源をとるようになっており、中間のスイッチを調節(私の場合20Vにセット)することで、さまざまな電圧のACアダプタの代わりに使用することができます。アダプタとパソコンをつなぐピンにも様々な形状がありますが、事務所で使っているコンバーターにはあらかじめ何種類かのサイズのピンが付属していましたし、変換コネクタを別途手に入れることができれば、さまざまな機種のノートパソコンを使用することができるようになります。

 

【部屋の照明をLEDにする】

急速に普及しつつあるLED照明ですが、これも実はプラスとマイナスの向きが決まった直流電流で点灯するようになっており、市販の家庭用LED電球はソケットの部分に交流を直流に変換する回路を内蔵しています。また最近では、LED内蔵型の電気スタンドもいろいろ発売されており、これらの製品はいずれもノートパソコンと同じくACアダプタを使って接続するか、あるいはアダプタを内蔵した仕様になっています。

 

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そこで、バッテリーと同じDC12Vの出力のACアダプタ付きの電気スタンドを買ってきて、アダプタを使わずシガーソケットからの電気で直接点灯させることにしました。ちょうど付属のACアダプタと同じ形状のピンがついたシガープラグが売られていたので、ケーブル1本で市販のLEDスタンドを灯すことができました(ただし、このような使い方はメーカーの保証対象外になるので、万が一壊してしまっても自己責任と割り切ることが必要です)。

 

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手もとの明かりを太陽光発電でまかなえるようになると、今度は天井からぶら下がっている蛍光灯もソーラー化できないか、という欲がわいてきました。そこで天井からケーブルをぶら下げてLED電球をつけようと思ったのですが、普通の電気屋さんで売っている家庭用LED電球は100Vの交流電流を直流に変換する回路が内蔵されているので、逆に直流電流を使うことができません。そこで、キャンピングカーや船舶で使用されるというDC12V専用のLED電球(消費電力3.5W×2個)を使うことにしました。壁と天井づたいに5mの長いケーブルをのばして、先端には一般的な照明とおなじ天井用のシーリングプラグを取り付けます。シーリングプラグには、やはり市販の照明用ソケットを取り付けて、さらにLED電球を取り付ければ、太陽光発電をつかった室内照明のできあがりです。

写真のように、素人が見よう見まねの手づくりで取り付けたものなので、見た目が不格好なのはお恥ずかしい限りですが(それはまた今後の課題ということで)、LED電球を二つ点灯してもわずか7ワット、左の蛍光灯(もともと事務所で使っていたもの)が20W×2本なので消費電力にしておよそ6分の1、二酸化炭素排出量はもちろんゼロで部屋に明かりを灯すことができるようになりました。

ちなみに、写真にうつっている二股ソケットですが、パナソニックがかつて松下電気器具製作所と呼ばれていたころ、1935年(昭和10年)に販売され大ヒットした「2号国民ソケット」の流れをくむもので、仕組みは当時とほとんど変わることなく、現在でも2号“新”国民ソケットとして全国の電気屋やホームセンターで販売されています。およそ80年前に生まれた製品が今も現役で使われ、しかもLEDというこれからの技術を支えている、というのもなんだか不思議なものです。

このような試行錯誤で、なんとか最初に思い描いていた活用法を実現することができました。仕事部屋で使う電気なので、とりあえずこの程度のことができれば十分なのですが、ミニ太陽光発電には他にもいろいろな可能性が考えられます。市販のカー用品がそのまま利用できるということは、小型の液晶テレビやDVDプレイヤーを使うこともできますし、性能のほどは定かではありませんが、簡易の冷蔵庫がわりになる冷却機能付きクーラーボックスなんて商品もあるようです。また、最近は省電力を売りにした扇風機をよく見かけるようになりましたが、これらは従来の扇風機で使用していた交流モーターのかわりに直流モーターを搭載しています。電圧さえ合わせればインバーターを介さずに稼働させることが可能なので、予算が許せば事務所でも導入してみたいと思っています。

今回はノートパソコンの使用例を紹介しましたが、デスクトップパソコンも小型化・省電力化がすすんでおり、Intel社が提唱するNUC(Next Unit of Computing)という規格では、超小型のデスクトップをノートパソコン並の消費電力で動かすことができます。ふだん事務所で使っているデスクトップパソコンを省電力のものに換えて、太陽光パネルとバッテリーをもっと強化してやれば、多少根を詰めないといけないようなパソコン仕事でも、事務所の屋根で発電した電気だけでまかなえてしまうかもしれません。もっとも、そこまで実践するにはそれなりの設備投資が必要なので現時点ではあくまで「将来の夢」ですが、それが実現したあかつきには、このメールニュースにさりげなく「KIESS MailNewsは自然エネルギー100%でお届けしております」とでも書こうかと思っておりますので、気長にご期待いただけますと幸いです。

 

(いわかわ たかし:KIESS研究員)

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