鈴鹿コミュニティ活動の展開(片山 弘子:MailNews 2013年10月号)

※ この記事は、KIESS MailNews 2013年10月号に掲載したものです。

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やさしい社会って?
— 誰でもどこでも出来る新しい社会システムづくりを東京、沖縄、韓国各地で紹介 —

 

F1グランプリ開催でおふくろさん弁当大忙し

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鈴鹿はF1で世界的に有名です。沢山の人たちがやってきます。コミュニティのおふくろさん弁当もテレビ局のスタッフなどからも注文を受け、いつもの注文と合わせて1000個を超える、まさに大繁盛の毎日でした。そんな鈴鹿市のまん真ん中に、一面に田んぼが広がっているなんて想像しにくいかもしれませんが、実際は広がる平地と豊かな水源を得て、農業生産高も三重県下二位、農地の中に街があるところです。

 

ぶどうがいっぱい — まちのはたけ公園3年目の稔り

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私が鈴鹿に移り、まちづくりの活動に係わるようになって3年がたちました。この辺りの新しい街づくりは2000年からスタートしたものですが、仲間と始めた鈴鹿カルチャーステーションと共に、街のはたけ公園や里山体験など通して、アズワンの街づくりの内容が鈴鹿市周辺で顕在化し、見学者も増えてきました。

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カルチャーステーション定例の珈琲&ケーキ付きミニアマライブ

 

最近ではその人たちを通して、鈴鹿から遠く離れた地域でも講座や講演会などが企画され紹介されるようになってきました。

そうなると、活動の呼び名が必要になってきたので「アズワンコミュニティ」と名乗るようになりました。しかし一般のエコビレッジや共同体と外観上大きく違うのは、趣旨を同じくするメンバーだけで集まって暮らしているわけではないことです。普通の街の中で、普通の暮らしをしながら、新しい社会の要素を研究し、人そのもの研究をしながら、誰もが幸福に生きられる安定した社会システムのモデルを試行している、なぜそれが出来るかという点に、見学者の関心が集中しています。特に不可欠な価値観の転換が、教育ではなく暮らしの中で自然に出来るような、誰でも幸せになっていける社会システムを通して、無理暴力なく社会変革が遂げられることを目指しています。

この秋、東京や沖縄、そして韓国で、そんな願いを共有できる人たちと新しく出会うことが出来ました。

 

アズワン訪問・滞在報告会 — 人って?人と人の繋がり方に焦点

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開催日:10月19日(土)
会 場:東京・護国寺音羽地域活動センター
主 催:日本エコビレッジ推進プロジェクト(JEPP)

佐藤文美女史は日本各地の地域づくりやエコビレッジづくりをレポートしてきた経験から、アズワンに関心を持ってこの2年余り関わってきた様子を報告。その後、鈴鹿から駆け付けたメンバーに会場から質問が途切れることなく続きました。その様子はUSTREAMでも放映されました。主な質問は…(以下、宮地昌幸さんのブログより一部抜粋)

Q「暮らしに必要なものが満たされているといっても、うまくいかないときもあるんじゃないですか?」

A「お金ないよ、ってな時だってあるよなあ。その時話し合えるお互いかどうか、だよね。無いなら、どうしようか?不満とかになっていかない」

Q「働くということと、日々の暮らし、お金をふくめた生活のことが分けて考えられる世界が分からない」

A「形式的には会社から給料は出る。それがコミュニテイのオフィスにいって、必要な分をもらう。ぼくは、そうしている。それぞれ、人によっていろいろ…」

Q「贈り物のストアは、誰でもつかえるの?」

A「今は、コミュニテイオフィスと相談して、趣旨を分かってもらって…」

Q「木の花ファミリーに関わってきた。アズワンとの違いは?」

A「木の花とのつきあいは6年になります。サイフ一つで、農業をベースに、みんなで話合って、コミュニテイとして意志決定をしています。アズワンは、コミュニテイとして意志決定をすることは無いですね。やろうという人が手を上げて、やっていこうという人で話合って進めます(JEPP・佐藤文美)」

A「はじまりが違うかな。アズワンは、こういうコミュニテイをつくろう、というより、人と人の本来的なつながりはどんなものか、そこの研究と試みをしている。そういう中から表れた心から、社会を組立ていくとどうなるか。向かっていく方向は同じだと思うけど、概念的や形からはじまっていない(JEPP・林悦子)」

最後に、トランジション・ジャパンの梶間陽一さんから。

「穏やかに淡々と話されていて、つたわってくるものありました。夏にアズワンさんを訪ねて、『鈴鹿カルチャーステーション』を見ましたが、感想は『鈴鹿カルチャーショックステーション』でした。(中略)トランジションもはじまって6年ほど。今、世界中に1000を越える活動のネットワークが出来ています。急速にこれほど広がったのは、活動の立ち上げをマニュアル化したことが大きい。誰でも、どこでも出来る。活動が世界中でいくつあろうと、出てくる花はみな違う。それをやっていきたい」

(出典:http://blog.goo.ne.jp/miyati007/e/cdcf5af6687881ee7778d2aa7889c80b

また代表の吉田俊郎さんは、「名前や方法にこだわらないで、本当の方向にみんなで一刻も早く進みたい、協力しながらやっていきましょう」とのことで、これからさらに理解をお互いに深めながら、協力し合っていきたくなりました。

 

土と平和の祭典 — 大雨の中、それでも会場に集まってきた人たち

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開催日:10月20日(日)
会 場:東京・日比谷公園

トランジション・ジャパンの皆さんの協力で、私たちも出店。私も雨の中でテントを移動したり雨よけを作ったりと忙しかったけれど、それでも訪ねてくる人たちとの出会いが嬉しくて、ずいぶん元気をもらいました。赤ちゃん連れ、子ども連れ、暮らしを変えたいと思っている若い人たち、里山暮らしを見直そうという人たち、そして、全国から出店に集まってきている人たち—まさに時代の流れを感じた一日でした。二十数年前に同じところでアースデイに参加していた時に感じた雰囲気とは違う、静かで真摯な切実感とその実働が、ごく普通の市民の間に年齢を超えて広がっているように思いました。

 

トランジション鈴鹿スタート

トランジションの人たちが夏に見学にみえたことがきっかけで、地域創生三重の会のメンバーたちを中心に、トランジションネットワークに仲間入りさせてもらうことになりました。まさに名前にこだわらず、実際を大事にし合える人たちと出会えたことで実現しました。これまでの街のはたけ公園や里山の活動も、地元の人たちと積み重ねてきたつながりを基盤として、実際は同じなんだけど、角度を変えてみるとまた新鮮!

 

93歳の遊び場 — まちのはたけ公園のこれから

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上の写真の向こう側で赤い長靴で作業をしているのは、93歳のお母さんです。

【大平達男さんのFacebookより】

母は、昨年8月新潟の魚沼よりここ鈴鹿に越してきた。魚沼時代は毎年欠かさず「野沢菜の漬物」を作り続けてきたという。鈴鹿に来ても矢張り「野沢菜」は栽培したい、漬物も作りたいという。

この畑は、「街の畑公園」と呼ばれていて我々のような中高年齢者がいろんな野菜を作っている。この地域の保育・幼稚園児、小中学校に通っている子供達、その父兄・家族達がこの畑で一緒に収穫したり、薪で炊いたご飯を食べたりして「地域の新たな創出」を探っている。

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ここまできたこの活動も、最初からこうしようと、誰かが外枠を考えていたわけではありません。この93歳のお母さんの心からのモノが、大事にされていくような、そんな一人一人の心が一つ一つが積み重なって響き合って、こんな形になっている…、これからどう育っていくのでしょう?

 

炭窯の崩落とその後

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鈴鹿は8月末から毎週のように台風に襲われており、すごい雨でした。

9月の第一週、前号で紹介した炭窯が崩落。雨が土にしみて飽和状態を超えたことが大きな原因のようです。メンバーは相当落胆したようですが、炭を分類しながら崩落した土を掘り上げ、原因を調べました。さらに「何をやろうとしていたんだっけ?」と、誰ともなく寄り合って心を語り合うことが始まりました。

里山をこよなく愛する高崎さんは「窯が悲鳴をあげているのに気がつかなかった、天災じゃなくて人災…」。責め合うことはありませんが、師匠である南伊勢町の楽農会・右田翁に連絡するのも心に重かったそうです。が、右田さんが楽農会のメンバーに伝えると、また最初からやろう!右田さんを一人にしないよ、と声が上がり、片道2時間の道のりをみなさんで応援に駆けつけて下さいました。それに応えて地域創生メンバーも、

「よ~し!!」

周囲の壁に瓦を張って雨水の浸入を防ぐことが描け、地域で瓦の処理の困っていたお宅から、思いがけず和瓦をたくさん分けてもらうこともできました。

炭焼窯ができたらすぐに炭ができるなんてことはありません。頭の世界では、こうしたらこうなると直線的な思考が働きますが、実際の世界が人の小さな脳の世界に収まるはずがありません。実際にそって人為を発揮する道がありそうです。やっぱり「無くて当たり前」という心境からのスタートですかね?

 

研究対象としての道は?

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元KIESS理事の石見尚先生が、ライフワークである協働社会研究の観点から、コミュニティとアソシエーションの分析や論考をされています。その中の一つとして、アズワンについて久しぶりの見学後、データをもとに分析・発表されています。

(参照:http://www.k3.dion.ne.jp/~neem/newpage14.html

また10月20日の日比谷公園にも、大雨の中を訪ねてみえました。その時にトランジションタウンの人たちを紹介したところ、さっそく市民運動として評論されています。

(参照:http://www.k3.dion.ne.jp/~neem/newpage15.html

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また、坂井和貴氏は若手研究者イワカワ君、フクダ君の動きをこのように紹介しています。

アズワンコミュニティの社会システムについての研究発表。現れてきた現象面を数値化して、そこからコミュニティの本質や新しい社会像を見い出し、描く作業。今日が第一回で、今後続編もありそう。また来月も東京の某大学研究室から、実態調査に来られることが決まっている。これを機に、日本の内外を問わず多くの研究者の研究対象となる道を拓きたい。

 

イムさんのコミュニティ滞在記

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韓国からコミュニティ作りを学ぼうとひと月滞在してしたイムさんが、コミュニティのお店の感想を書いてくれました。以下、イムさんのコミュニティ滞在記(Facebookから抜粋し、翻訳・編集)から…

【そのまま持っていくお店】

おかしな店があります。

そちらでは、人々が入ってきて、物をそのまま持っていきます。

そしてお金を出しません。

座っている職員も、金を受け取るつもりはありません。

品物を取りに来た人々とおしゃべりをしています。

そしてむしろこちらは人々が品物を持っていきやすいように、タッパーやビニール袋、ラップ等も用意しています。

 

思い思いに好きなことを活動して、まとまりがないアズワンコミュニティ

全体で集まって方針を出すなんてことが全くありません。一人一人の動きが、凸凹して頼りなくて、こんなことで本当にやっていけてるの? と見学の人から聞かれて、立ち止まったりしています。おのおの本心に立ち返りながら、本当にやろうとする人たちで協力しながらやっていくという、アメーバ状態で、一見ばらばらに見えてまとまらない、そんな感じが面白くなってきています。

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誰かに言われたから動くという習慣は、まだ私自身の中にも根強くあって、ふと自分が何のために活動しているのかわからなくなる時も多かったのですが、ここに来て、3年目にしてようやく自分の本心に関心が向き始めています。例えばキュウリも、こんな形になろうと思って大きくなっているわけではないでしょう。あれやこれやの試行錯誤の結果、こんな形になっている、命の持つ働きに沿った見えない大きな世界の産物なのでしょう。

私たち人間はそんなにうまくいくでしょうか? 人間の方はそのくらいに頼りない気がする。人と人の織り成す毎日、来月はどんなふうになっているのでしょう?

 

(かたやま ひろこ:NPO法人鈴鹿循環共生パーティー理事)

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