「節電」とこれからの暮らし(岩川 貴志:MailNews 2013年4月号)

※ この記事は、KIESS MailNews 2013年4月号に掲載したものに、一部加筆修正を加えたものです。

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3月23日。KIESS恒例の土曜倶楽部では、理事の石塚勝己さんより『「2012夏 おうみ節電アクションプロジェクト」について』というタイトルで講演していただきました。当日のお話については活動報告をご覧いただくとして、ここではプロジェクトの集計結果から見えてきたこと、特にこれからの我々の暮らしと関連の深い部分について、いくつか視点を変えた考察をしてみたいと思います。

 

がんばったけど、なかなか減らない?

「2012夏 おうみ節電アクションプロジェクト」では、滋賀県の地球温暖化防止活動推進員の皆さんや地元の企業・自治会の方々の協力によって、県内4,000世帯以上の家庭の去年(平成24年)と一昨年(平成23年)の夏の電力使用量、そして節電のためのさまざまな取り組みに関するアンケート調査が実施されました。

この膨大なデータを集計したところ、回答世帯全体での電力使用量は、一昨年と比べて0.93%の削減(表1参照)、気候条件の違いなどを考慮して補正をおこなった場合で、一世帯あたりの平均節電率は3.61%という結果になりました。

表1:参加世帯の電力使用量

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関西電力の提供データによると、去年の夏の同じ時期の滋賀県内の家庭用電力消費は、一昨年比でプラス3.2%とのことなので、プロジェクトとしては一定の成果をあげることができたのは間違いありません。しかしこの結果を目にしたとき、プロジェクト関係者の皆さんの率直な感想は、「思ったより減ってないなあ」でした。たしかに、なかには積極的に取り組みを重ねて数十パーセントもの節電を達成した家庭もありましたが、その一方でなかなか思うように効果があがらず、結果的に電力消費が大幅に増えてしまった、という家庭も少なくありませんでした。

調査票の回答を見る限り、節電行動は「エアコンの使用を控える=83.9%」「テレビをつける時間を減らす=49.5%」など、大半において非常に高い割合で取り組まれていました。それにもかかわらず、期待していたような効果をあげるのが難しかったのはなぜでしょう? 電気に限らず家庭でのエネルギー消費は、各世帯のその時の事情などによって大きく変動するものなので、今回の限られた調査項目だけで一概に判断することはできませんが、いろいろな分析を重ねてみた範囲で、いくつか気づいたことを整理してみたいと思います。

 

考察その1:年齢との関係

4~5人家族の世帯(調査世帯4,040件のうち1,270件)について「15歳未満」と「65歳以上」の人がいる/いないで分け、それぞれの電力使用量と節電率を比較すると表2のようになりました。この結果を見ると、家庭における子どもや高齢者の存在と節電になんらかの関係があったように思われます。

表2:「15 歳未満」「65 歳以上」の有無と電力消費・節電の関係

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今回の調査期間が7~8月、すなわち大半が夏休み期間であったことからすると、ふだん子どもたちが学校で過ごしている時間の一部が、自宅で過ごす時間にシフトしていることが予想されます。また、平成23年に実施された社会生活基本調査(総務省)では、1日のうち睡眠時間をのぞいた正味の生活時間をどこで過ごしていたか、という調査結果が報告されています(図1を参照)。これを見ると、全般的に年代が高くなるほど自宅で過ごす割合が増える傾向にあり、特に男性の場合60歳前後、すなわち仕事が定年を迎えるころを境に在宅時間が大幅に増加していることがうかがえます。つまり、子どもや高齢者のいる家庭では、気温が高い日中に家で過ごすことが増えるために、エアコンの使用機会も多くなり、こまめな節電の効果が現れにくくなる傾向にあるのではないかと考えられます。また1か月あたりの電力使用量をみると、「15歳未満」のいる家庭のほうが少なく、「65歳以上」のいるほうが多くなるという傾向もみられました。

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図1:睡眠を除く生活時間における滞在場所の割合

 

集計した全世帯の年齢構成を集計すると、表3のようになります。これを見ると、今回の調査の特徴として、65歳以上の方の割合が県全体の平均よりかなり高めであったことが確認できます。したがって今回の場合、調査世帯の高齢化率が高かったことも、思ったほど効果を上げることができなかった一因に挙げられるのかもしれません。

 

考察その2:世帯人数との関係

図2は、今回の調査世帯の世帯人数別の平均節電率を示したものです。グラフを見ると、世帯人数と節電効果がおおむね反比例の関係にあることが確認できます。世帯人数別の取組実施率をみると、人数の多い家庭ほど、「○○○○を減らす」「××××を控える」といった行動が実践されにくい(表4参照)ことなどから、家族の人数が増えるほど家庭内で足並みをそろえて節電に取り組むことが難しくなってしまうのかもしれません。

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図2:世帯人数別の平均節電率

 

表3:プロジェクト参加世帯の年代構成

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表4:世帯人数別の節電取組の実施率(一部抜粋)

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集計した全世帯を世帯人数別に集計すると、表5のようになります。これを見ると、今回の調査の特徴として、平均世帯人数は滋賀県全体の平均よりもかなり多め、しかも単身世帯の割合が極端に少ないことが確認できます。今回の調査では、これらの要因が思ったほど効果を上げることができなかった理由の一つに挙げられるのかもしれません。

 

表5:プロジェクト参加世帯の世帯人数別構成

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考察その3:大幅に増加した世帯の特徴

アンケートの数値をもとに、一昨年(平成23年)と去年(平成24年)の夏の電力使用量が「15%以上削減」「±15%未満」「15%以上増加」という三つのグループに分けて、それぞれの使用量や節電の取り組み状況を調べてみると、ある興味深い傾向がみえてきました。

表6は、各グループ世帯の1か月あたりの平均電力使用量と、主要な節電取り組みの実施率を一覧にしたものです。表の右側、去年(平成24年)の結果をみると、15%以上「削減」した家庭は、「増加」した家庭と比べて電力使用量が大幅に低く、主要な取り組みでも、より高い実施率を示しています。しかし、一昨年(平成23年)はどうであったかというと、むしろ電力使用量は「増加」した世帯の方が少なくて、しかも取組実施率も「増加」した世帯の方が高かった、ということが明らかになりました。

一昨年3月11日の東日本大震災を発端とした、エネルギー情勢をとりまく一連の動きのなか、関西でも多くの方が早い段階から節電に取り組んでこられたことは言うまでもありませんし、アンケートの結果もそれを裏付けているといえるでしょう。しかしその裏で、去年の夏の“2年目の節電”になると、今回はつい気持ちが緩んでしまった、おととし頑張りすぎて大変な思いをした、などの理由で早くも「リバウンド」してしまった家庭も多かったのではないか、ということもこの結果から推測されます。

表6:節電状況別の電力消費量と取組実施率の比較(一部抜粋)

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節電の向こう側に目指すもの

以上の三点からの考察をまとめると、今回の「2012夏 おうみ節電アクションプロジェクト」では、参加世帯の傾向として、

  • 家族構成における高齢者の割合が高かった
  • 単身世帯が少なく、多人数世帯が多かった
  • 一昨年より節電に取り組んでおり、リバウンドしてしまった家庭も多かった

ことが、期待していたような節電効果を得られなかったことにつながっていると考えられます。

しかし、それ故にこの調査の結果はあまり参考にならない、と言ってしまっていいものかというと、一考の余地があるのではないでしょうか。

たとえば一つ目の高齢者の割合が高かった点については、今まさに超高齢化社会の過渡期にあるという現状を考えると、これからも増え続けるであろうシニア層がどのように暮らすか、どのように生きるかを考えることが、環境・エネルギーの観点からも無視できない影響を与えうるということを示唆している、ともいえます。

二つ目の多人数世帯が多かった点については、たしかに家族の人数が増えることで節電行動の足並みがそろえにくくなってしまうのは事実かもしれません。しかし一方で、図3のように世帯人数ごとの電力消費量を「1人あたり」に換算してみると、多人数で住まうことによる電力消費の節減は、節電のための様々な行動と比べてもはるかに効果的であるということも示されました。

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図3:世帯人数別の1人あたり電力消費量

そして三つ目、“2年目の節電”のリバウンドについては、いわゆる環境配慮行動としての「節電」を継続することの難しさを示唆しているともいえます。節電のために何かをしなければならない、頑張らなければいけないという義務感や使命感も大切ですが、それだけでは気疲れしてしまい、長続きしない人の方が多いのではないでしょうか。

これらをふまえて今後の展望を考えると、よりいっそう電力消費、ひいてはエネルギー消費を削減し、それを定着させるためには、いわゆる「節電行動」の枠を超えた取り組みが必要になってくるでしょう。たとえば単身暮らしをしている若者や高齢者たちがつどい、食事や娯楽などを共にするような拠点づくりであったり、近隣の家族どうしが日々交流するような近所づきあいの復活であったりといった、過度に「個人化」してしまった我々の暮らし方を変えていくような試みが、介護福祉や地方経済などの社会問題に対する解決策になると同時に、結果として節電、省資源、持続可能な社会の実現のためにも不可欠でしょう。

(いわかわ たかし:KIESS研究員)

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