「情報」と「行動」の関係性(岩川 貴志:MailNews 2015年7月号)

※ この記事は、KIESS MailNews 2015年7月号に掲載したものです。

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環境のため、家計のため、健康のため…目的は人それぞれかもしれませんが、日ごろからエアコンを使いすぎないようにしたり、冷蔵庫に食品を詰め込みすぎないようにしたり、あるいは使ってない家電製品のコンセントを抜いたり、といったことを心がけている方は多いのではないでしょうか?

こういった「こまめな環境配慮行動」の積み重ねで、果たしてどれだけ環境負荷を削減することができるのか? という疑問を投げかけたい気持ちもありますが、少なくとも環境に悪いことはしていないはずですし、こういった行動が当たり前のようにできる人というのは、きっと日常生活の中でも、自分にとっての必要十分な消費というものをよく理解していて、多量の資源消費とそれに伴う多大な環境負荷によって支えられている、現代社会の経済システムにはあまり貢献していないことでしょう。そんな人が増えていけば、世の中の仕組みも大きく変わって、真の意味での持続可能な社会に近づいていくのではないかと思います。

さて昨年の秋、滋賀県内でのさまざまなイベントや環境に関する勉強会などの参加者を対象に、これらのこまめな環境配慮行動、特に夏の節電に関する取り組みについてアンケートが実施され、筆者もこのアンケートの設計と分析に携わらせていただきました。今回はこの調査結果について、少々独自の見解を加えながら紹介させていただきたいと思います。

アンケートでは「冷房の設定温度を28℃以上にする」「白熱電球をLEDや蛍光灯電球に交換する」「炊飯器の保温を控える」といった、家庭でできる14種類の取り組みについて、

今年の夏 → できた/できなかった
今後は… → できそう/できなさそう
この取組を、まわりの人にも伝えたいと思うか

という三つの質問に答えてもらいました。アンケートはのべ17会場の来場者に配布され、男女とも幅広い年代層から1,173件もの回答が得られました(有効回答のみ)。

配布したアンケート用紙は、会場や実施日などによって二種類のものを使い分けました。一つは、14種類の節電行動について先述の①~③の質問に答えてもらうだけのタイプで、もう一つは回答欄の横に、

外気温度31℃の時、エアコン(2.2kW)の冷房設定温度を27℃から28℃にした場合(使用時間:9時間/日)⇒ 年間816円のお得、15.8kgのCO2削減

のように、それぞれの節電行動がもたらす効果を「家計のお得額」「CO2削減量」という二つの情報で示し、それを見ながら回答してもらうものです(図1)。ここでは前者のアンケートを「情報なし」、後者を「情報あり」と呼ぶことにします。

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図1:家庭の節電に関するアンケート用紙(「情報なし」では左側だけを使用)

まず、「今年の夏(つまり’14年の夏)」の節電行動については、取り組みによって3割~9割程度と大きな差はありますが、「情報あり」「情報なし」の間の差はごくわずかです(表1上段・図2)。14項目中13項目で「情報あり」の回答者の実施率が「情報なし」を上回っていますが、有意差があると見なせるのはそのうち2項目だけです。「今年の夏」の節電行動の実施状況を、回答者のそもそもの環境配慮への意識と解釈すると、双方の回答者らの意識の差はわずかなものであった、とみなすことができます。

続いて、今後の節電行動についての実施の可能性(できそう/できなさそう)ですが、ここでは個々の行動について「今年の夏」は「できなかった」と答えた人の回答のみを集計することにします(表1中段・図3)。全般的に「情報あり」の回答者の方が「情報なし」の回答者よりも高い割合で、今後は「できそう」と答える傾向にありますが、やはり差はわずかで、統計的にみても有意差があるといえるのは14項目のうち2項目だけです。節電行動に関する情報提供は、実際の行動に影響を与えていないわけではないが、効果のほどは…、と言わざるをえないでしょう(少なくとも今回の情報では)。

一方、これらの節電行動をまわりの人にも伝えたいと思うか否かですが、ここでは「情報あり」「情報なし」の回答状況が明らかに違っています(表1下段・図4)。14項目すべての節電行動について「情報あり」が「情報なし」を大きく上回っており、統計的な有意差も生じています。

さらに男女別に集計してみると図5,6のようになります。まず「情報なし」の回答者を見てみると、男女の間でほとんど差はありません。そして男性の「情報あり」の回答者は、わずかながらも全般的に伝えたいという気持ちが強いといった程度ですが、女性の「情報あり」はより明確に、すべての行動について2~3倍は伝えたいと回答した人が多い、という結果になりました。

 

表1:節電行動に関するアンケートの回答状況

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図2:「今年の夏」の節電取り組み状況

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図3:節電行動に関する今後の実施可能性

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図4:まわりの人に伝えたいと回答した人の割合

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図5:まわりの人に伝えたいと回答した人の割合(男性のみ)

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図6:まわりの人に伝えたいと回答した人の割合(女性のみ)

以上を簡単にまとめると、

  • 「情報あり」「情報なし」では、回答者のもともとの環境配慮意識(=「今年の夏」の節電行動)の差はわずかであった
  • 現在節電行動を実施していない人の回答をみると、「情報あり」の方が今後取り組む意向が強い傾向にあるが、若干の差であった
  • 節電行動についてまわりの人にも伝えたいと思うか否か尋ねると、明らかに「情報あり」の方が、伝えたいと思う気持ちが強かった
  • 特に女性の方が、情報を受け取るとより強く、まわりの人にも伝えたいと感じる

という結果が得られました。

今回の結果で特に興味深いのは、節電行動に関する「家計のお得額」「CO2削減量」といった情報提供が、回答者自身の行動意識よりも、家族や知り合いなど周辺の人たちに教えたいという気持ちに強く働きかけていた、という点です。節電に関するセミナーのように、じっくりと話を聞いてもらうような場であれば、受講者自身の行動意識も大きく変わるかもしれません。しかし、今回のように不特定多数の人に向けて情報を広く提供するような場合は、その効果に限度があると言わざるを得ないでしょう。しかし、もしも口コミで二次的、三次的…と情報が伝播してくれたら、知らないところで誰かが新たに取り組んでくれるような波及効果が期待できるかもしれません。

そしてもうひとつ興味深いのは、節電について得た情報をまわりの人に伝えたいと思うのは、圧倒的に女性の方が多いということです。女性の方が用紙に書かれた「家計のお得額」「CO2削減量」といった情報をしっかりチェックしているからなのか、あるいは女性の方がみんなと情報を共有するのが好きなのか、はっきりとした理由は分かりませんが、環境配慮に関する情報を発信するときには、女性をターゲットにして家族や知り合いにも広めてもらうのを期待する、というのが効果的なようです(これは環境に限らず、世の中の物事全般についても言えるような気がしますが…)。

最後にまったくの余談ですが、私が仕事を終えて帰宅すると、妻は身のまわりの出来事や、雑誌やテレビで知ったことなど、その日に起きた色々なことを私に話してくれます。それに対して私は、仕事中の出来事や自分が学んだことなどをあまり話そうとしない方なので(別にやましいことをしているわけではありませんが)、よく妻の機嫌を損ねてしまいます。これもまた、アンケートの回答の男女による違いと同じく、自分が得た情報をまわりの人にも伝えたいと思う気持ちのギャップなのかもしれません。これからは、我が家での環境配慮行動の促進と持続可能な家庭の構築のために、私自身も積極的な情報発信と共有に心がけねばならない、と身に染みて感じる今日この頃です。

今回のReportは滋賀県地球温暖化防止活動推進センターによる「平成26年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金 地域における地球温暖化防止活動促進事業(滋賀県)」の事業成果を基に、一部データを再集計して執筆したものです。アンケートの内容と集計結果以外の記述はすべて筆者独自の見解に基づくものであり、一切の文責は筆者にありますことを文末ながら申し添えさせていただきます。

(いわかわ たかし:KIESS研究員)

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