地域活性化とは何か(楠部 孝誠:MailNews 2013年7月号)

※ この記事は、KIESS MailNews 2013年7月号に掲載したものです。

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先日、地域で里山保全活動に取り組むNPOの方から「地域活性化って、何ですかね?」「どこまでやれば地域が活性化したって言うんでしょうね?」と議論になったことがあり、今回地域活性化とはどういうことなのかについて少し考えたいと思います。

 

NPOの里山保全活動

最初に、地域活性化を考える前に先述のNPOの取り組みについて紹介します。このNPOは金沢市の郊外にある集落を活動拠点としています。金沢市とはいえ、石川県と富山県の県境に位置する里山地域にある集落は36世帯70人、住民の半数が65歳以上という限界集落です。ここで活動しているNPOは、里山地域の保全と地域の活性化に取り組むために平成22年に組織されたまだ若い組織です。
発足間もないですが、この数年間に竹林や耕作放棄地の整備、体験型農園の開設、水稲のブランド化などに取り組んでいます。また、地域で元々実施していた日曜朝市をベースに、市街地のスーパー店舗への出荷(産直)やマルシェ開催による新たな購買層の開拓、さらにはこれら市街地での農産物販売を通じた里山地域のアピールを行っています。当初はこの地域の名前さえ知らなかった人たちも現在ではこの地域を知る人が増え、ベースとなっている集落での日曜朝市へ出かけてくれる人も増えています。さらに、里山資源の有効活用を検討するため、大学と共同研究を実施し、竹材の飼料化試験や竹材のコンポスト資材の開発、耕作放棄地での搾油作物の生産と農業エネルギー利用など、里山資源を利用するための幅広くかつ積極的な取り組みを実施しています。
一方、地域の社会活動として、住民と地域外住民との交流事業として農産物販売や竹林整備の体験等による「ふれあいフェア」の開催、実体験を通して過疎・高齢化の進む中山間地域の課題を考える大学生のインターンシップ事業を展開しています。このインターンシップでは、大学生は住民の家で寝食を共にすることもあり、地域住民が日ごろ接触することのない若い大学生との触れ合いで刺激を受けているようです。また、市街地まで車で1時間もかかるため、高齢者が多い集落では通院と買い物が課題であったことから、生活支援としてカタログ注文による買い物支援を実施しています。これも単なる買い物支援ではなく、コミュニティショップを設け、そこまでは住民が受け取りに来るように仕掛け、孤独になりがちな住民間のふれあいと見回りを実現しています。
NPOの構成メンバーはこの地域の住民ではないため、これらの事業を行う場合、当然のことながら、地域住民の協議を経てからになりますが、概ね6、7割の住民が賛同した上で実施することにしているそうです。先行的にモデル実施して結果を見せて誘導することも1つの方法ではありますが、あくまで地域住民が自分たちで考え、地域のために、というスタンスを取っているそうです。地域内に居住はしていませんが、NPOのメンバーはそれぞれ地域に深くかかわり、地域内部と外部をつなぐ連絡役を担っています。
そもそも住民でもないNPOのメンバーが集落に関わりを持つようになったのは、地域の将来を懸念する地域のごく一部の住民と里山保全活動を考えていたNPOメンバーが偶然繋がったことによるものですが、現在ではNPOによる様々な活動の仕掛けを通して、徐々に地域住民の多くが自発的に今後の地域や様々な活動について考え、行動し始めるようになっているそうです。

 

地域活性化に必要なものは

さて、「地域活性化」という言葉はよく耳にし、その用いられ方も様々ですが、そもそも地域が活性化するとはどのような状態を指しているのでしょうか。
萩尾・高瀬は、活性化が議論される場合、「活性化の主体とそれを構成する要素(たとえば、個人)という複数のレベルのものが同時に問題にされ、このような複数のレベルを考慮に入れ構成要素が自立して行動することにより当該主体が活力を発揮するという現象」を指して活性化であると指摘し、活性化という現象は必ずその主体自体の活力と、それを構成する構成要素の自立性との関係を含んで議論可能になるとしている。つまり、地域の活性化は、地域を構成する住民の自立性、自律的行動がまず重要であることを指摘しています1)
地域の住民の自立性、自律的行動が重要な要因ですが、他にはどのような要素が必要となるのでしょうか。その手がかりとして、1970年代に提示された内発的発展論にさかのぼることが1つの方法です。国内で初めてこの表現を用いた社会学者の鶴見和子が提唱した内発的発展は、「それぞれの地域の人々および集団が固有の自然生態系に適合し、文化遺産(伝統)に基づいて、外来の知識・技術・制度などを照合しつつ、自律的に創出する」こととし、「国内および国際間の格差を生み出す構造を人々が協力して変革すること」、「多様性に富む社会変化の過程」であると表現しています2)。また、宮本憲一は「地域の企業・労働組合・協同組合・NPO・住民組織などの団体や個人が自発的な学習により計画をたて、自主的な技術開発をもとにして、地域の環境を保全しつつ資源を合理的に利用し、その文化に根ざした経済発展をしながら、地方自治体の手で住民福祉を向上させていくような地域開発」を内発的発展と呼んで、外来型開発に対置するもの(ただし、外来の資本や技術を全く拒否するものではない)と提起し、4つの内発的発展の原則を示しています3)

  1. 地域開発が大企業や政府の事業としてではなく、地元の技術、産業、文化を土台にして、地域内の市場を主な対象として地域住民が学習し計画し経営するものであること
  2. 環境保全の枠の中で開発を考え、自然の保全や美しい街並みをつくるというアメニティを中心の目的として、福祉や文化が向上するように総合され、なによりも地元住民の人権の確立をもとめる総合目的をもっていること
  3. 産業開発を特定業種に限定せず複雑な産業部門にわたるようにして、付加価値があらゆる段階で地元に帰属するような地域産業連関を図ること
  4. 住民参加の制度をつくり、自治体が住民の意思を体して、その計画に乗るように資本や土地利用を規制しうる自治権をもつこと

さらに、玉野井芳郎は内発的地域主義として、「地域に生きる生活者たちがその自然・歴史・風土を背景に、その地域社会または地域の共同体に対して、一体感をもち、経済的自立性を踏まえて、自らの政治的・行政的自立性と文化的独自性を追求すること」と定義しています。ここでいう経済的自立性は、閉鎖的な経済自給ではなく、アウトプットよりもインプットの面でとりわけ土地と水と労働について、地域単位での共同性と自立性をなるべく確保し、その限りで市場の制御を企図しようとするものであり、政治的・行政的自立性とは地域住民の自治であるとしています4)

大規模な地域開発や環境破壊が起こった1970年代を背景として提唱された内発的発展が示している変化の方向性は、状況は異なりますが現在の地域活性化が目指すべき方向を指し示しているのではないでしょうか。

 

地域活性化と持続可能な地域づくり

地域の内発的発展で示した方向性からいえば、先のNPOの取組みと地域住民の変化は地域の活性化に向けての一歩を踏み出しているのではないでしょうか。ゴールというわけでありませんが、この場合、地域住民がNPOから提案されたことを検討して実施することから、自らが企画し、検討し、行動していくことが地域活性化の1つのゴールと言えます。
では、地域活性化が持続可能な地域づくりへと展開していくにはどのような課題があるのだろうか。特に、先のNPOが活動する限界集落のような場合、将来、それもそう遠くない将来に迎える過疎化が常に懸念されます。このため、限界集落では通常地域の持続性という点からは、とにかく新たな定住者が必要であるとの認識が強く、概して、行政の地域施策の中心はUターン、Iターンなどによる定住者の確保を目指すものが多いです。しかし、先述のNPOが活動する集落では、確かに定住者が増えることは望ましいのですが、必ずしも新たな定住者が増えればいいとは考えていないようです。むしろ、里山資源の利用限界、水の利用限界など地域資源の制約から考えれば、現在の世帯数でよいとさえ考え、安易に定住者を求めるというスタンスではありません。だからといって、農業だけで食べていけるわけでもなく、医療や教育の問題も大きいことは確かです。それでも、NPOという外部の組織によって刺激された地域内の住民が地域のことを考え、自律的に学習し、行動することで地域のあるべき姿が模索され始めています。簡単なことのようですが、地域の人たちが自発的に地域のことを考え、行動するのは容易ではありません。それは、外部の人から見れば、魅力的な里山資源であっても、地域の人にとっては何ということもないありふれたものでしかないからです。そのため、地域の活性化の成功事例と言われる事例の多くは内部から自発的に活動が起こるというのは稀で、この集落のように外部の人や考え方、サポート、提案などに触発された地域住民が自発的に地域のことに取組んだ結果ではないかと思います。ことさら言うまでのことではありませんが、持続可能な地域づくりには補助金や行政のサポートも必要かもしれませんが、まずは地域内の住民が自発的・自律的に行動する仕掛けを様々な形で提供していくことが地域活性化、持続可能な地域づくりへの第一歩ではないかと思います。

 

参考文献
  1. 高瀬武典・萩尾千里:関西活性化と組織の自律性,社会変動と関西活性化,関西大学経済・政治研究所関西活性化研究班編,関西大学経済・政治研究所,2007.
  2. 鶴見和子・川田侃編:内発的発展論,東京大学出版会,1989.
  3. 宮本憲一:環境経済学,岩波書店,2007.
  4. 玉野井芳郎:地域主義の思想,農山漁村文化協会,1979.

 

(くすべ たかせい:KIESS理事・石川県立大学講師)

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